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『雫の生まれる時』より『床の上で四つん這い』

食事を終え、かみさんはベッドに横たわり陣痛の強まりを待つ。 ベッドといっても、病院にある様なベッドでも、産婦人科の分娩用のベッドでもなく、まるで子供部屋にでもありそうな木製の、普通のシングルベッドだった。 ボクと娘はその傍らで、絵本を読んで過ごす。 ベッドの脇には、エコーや心音のモニターが設置されていて、 「やっさもっさ、やっもっさ」と赤ちゃんの心音が聞こえる。 I 先生は片付けや準備をしながら、定期的にカミさんの様子を見に来てくれる。 娘は、いつも通り抱っこして貰い、ママに甘えながら過ごした。 やがて陣痛が強くなり、時折かみさんが苦痛に顔をしかめる様になった。 先生に促され、自分が産み易い体勢を探る。 かみさんはベッドから降り、カーペットが敷いてある部屋の真ん中に四つん這いになった。 家で着ているパジャマで、陣痛の波に飲まれながら、踏ん張っている。 傍らにはその様子を見守る娘が、泣きそうな顔で歯を食い絞っている。 ママを気遣いながらも、一緒に耐えている様な顔つきだ。 ボクはただひたすらその様子を写真に収める。 最初はかみさんの出産時の記録のつもりだったが、思わず、長女の「立ち会い出産」の記録写真の意味も大きくなる。 想像では泣き喚いて、出産時には足手まといになると思っていた。 が、違った! 彼女は立派にママを守っていた。 幼いながら家族の一員として、新しい生命の誕生を共に迎えた。 やがて、妻の顔、ママの顔を忘れ、人ではなく、獣の顔になったかみさんが、獣の様な唸り声をあげ、いきみながら四つん這いのまま、尻から顔を生やしている。 流石に、この写真はネットではお見せできないが…。 頭では分かっているのだが、この光景を生で見る衝撃は半端ない! 横で手当てをしながら、先生が腰をさすり、励ましの声と指示を与える。

ボクはひたすら、見つめ続ける。 娘も見つめ続ける。                          続く                    紙芝居師 夢追人拝



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